大判例

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福島地方裁判所相馬支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人を罰金参千円を処する。

右罰金を納めることが出来ないときには、金参百円を壱日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

但しこの裁判が確定した日から弐年間右刑の執行を猶予する。

本件公訴事実中、被告人が大木久夫をして読売新聞に被告人の談話を掲載させて〓口明の名誉を毀損したとの点は無罪。

理由

(罪となる事実)

被告人は、昭和二十九年五月十日頃、福島電気鉄道株式会社(以下単に会社と略称する)に雇われ、同会社中村営業所配属の乗合自動車の運転をして居り、同年十一月下旬退職したものであるが、昭和三十年七月二十九日頃、福島県相馬市中村字上町武林呉服店の自動車車庫において、新聞記事取材の目的を以て被告人を探し求めて来訪した河北新報相馬通信部の記者島幸より質問されるや、同人が河北新報社の記者であり、且つ同新聞紙に掲載する記事を取材するものであることの情を知りながら、右島幸の質問に応じてその材料を提供した結果、同人が手記して送付した原稿に基き、昭和三十年七月三十日発行の河北新報紙上に「年少者も酷使?、中村営業所人権問題、労基署でも調査へ」の表題で、その冒頭に〓口明及び被告人両名の写真を掲げた記事の一部に「解雇された小川さんの話、まつたく寝耳に水でバス代横領とは心外だ。それにこの野郎ふざけるななどの暴言を吐き身体検査をされそれに無実の罪を着せられ退職願も書かないのにこれを本社に提出したことは当然私文書偽造であり断固闘う」と掲載されたものを、発行し、これをその頃福島県相馬市内その他多数の購読者に配布せしめ、以て公然事実を摘示して〓口明の名誉を毀損したものである。

(証拠)

以上の事実は、

一、証人島幸の当公廷における供述中、自分は河北新報相馬通信部の記者であるが、昭和三十年七月三十日発行の河北新報紙上に小川さんの談話として掲載されてある記事は自分が取材して送つたものであつて、その前日に当る七月二十九日小川さんの話を聞いて新聞に載せるつもりで、小川さんを探して相馬市中村字上町の或る車庫まで行き、小川さんから話を聞き、それを速記した後で、このことを新聞に掲載するからと言つたら同人は「よいです」と言つたので、小川さんは私(自分)が小川さんから聞いた事を新聞に載せることを判つたものと思う。なお自分が河北新報の記者であることを小川さんは知つて居た。又その時写真もとらせて貰つたのである。今示された新聞紙の切抜(証第四号)にある「解雇された小川さんの話」として掲載されてある記事の原稿は、自分が小川さんから聞いて書いたものである。新聞は公正でなければならないので、小川さんから聞いた通りの談話を記事として掲載したが、同人より新聞に掲載してくれと頼まれたことはない旨の供述、

一、被告人の当公廷における供述中、今示された新聞紙(証第四号)に書かれていることと私の話したことは違つています。私は「全く寝耳に水だバス代横領とは心外だ」等とは言いませんが、その他のこと即ち〓口所長は横暴だ云々と言うことは話した。その時、島記者一人で自分を探して、武林呉服店の車庫に来たので、そこで話した。それまで島記者を知らなかつたが同人の乗つて来た自転車に河北新報と書いてあつたので、同人が新聞記者だと判つた。自分は昭和二十九年五月十日から福島電鉄会社中村営業所に勤め、同年十一月二十三日にやめた。会社に入社した際、本社の専務取締役から、乗務員は乗務中、私有の金銭を所持してはならないと言われたことがある。自分は昭和二十九年十月三十一日頃、中村大倉間のバスを運転した際、同乗の車掌丹治令子が茸を欲しいと言つたので、その時持つて居た五拾円札で、茸二貫匁買つて同車掌に呉れた事がある。その時丹治車掌がその金は持つて居ても大丈夫かと言うたので、自分は大丈夫だと言うた。しかしその後丹治令子は、〓口主任に追究されて自分から茸を買つて貰つたことを話したとのことを、後で聞いた。昭和二十九年十一月十日頃、勤務を終り自動車を車庫に入れ、日報を書き終つてから、中村営業所の乗務員控室で、門馬一夫、安藤敏雄、清野武雄の三人(三人とも睦会の班長をして居る運転者である)の立会で、〓口明主任から身体検査をされたことがあり、その時自分の脱いだ靴の敷革の下から拾円札二枚を見つけたと、〓口主任が言うて「これは何だ」とか「これは何処から持つて来たか」等と鋭く追究したが、私はそれを手に取つて見せられたわけでないから、果してその紙片のようなものが、拾円札であつたかどうか判らなかつた。そうしてその時まるで罪人扱いされたので、本当に復が立つて口惜しいと思つた旨の供述、

一、被告人の検察官に対する昭和三十年十二月十日の第二回供述調書中、私は本年七月二十三日福島地方法務局相馬支局に出頭して、口頭で福島電鉄中村営業所主任〓口明より人権を蹂躪されたことを申告した旨の供述記載

一、証人佐藤友之助の当公廷における供述中、自分は昭和二十九年四月から福島電気鉄道株式会社の総務部長をして居るが、会社の中村営業所長より報告を受けたというて自動車部長より自分に報告したところによれば、小川君が乗務中私金を所持して居り茸を買つたこと、百円札三枚を帽子の中から出して煙草バツトを買い、その残りを靴に入れて持つて居たこと、拾円札二枚を靴の敷革の下に入れて置いたこと、小川君が貸切バスを運転した時に、後から乗合バスが来るのに拘らず、客を貸切バスに乗車させ、その料金を会社に出さなかつたことなどがあつて、小川君の場合は、私金を持つて居たことが明確になり、自動車部長から相談を受けたのであるが、私金を所持することは服務規律違反になるのである。乗務員が私金を所持してならないと就業規則に記載されてあると思うが、若しその当時未だそのような規則が明文化されてなかつたとしても、入社した時、乗務員は乗務中私金を所持してはならないと言うて居た。小川君を退社させることにつき遠藤自動車部長より相談を受けたので依願退職にしろと話した旨の供述、

一、押収してある河北新報紙の切抜一部(証第四号)の存在

等を綜合してこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示行為は、刑法第二百三十条第一項罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に当るので、所定刑中罰金刑を選び、その金額の範囲内で被告人を罰金参千円に処し、若し被告人が右罰金を納めないときには、刑法第十八条により金参百円を壱日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。なお諸般の情状を検討した結果、刑法第二十五条第一項をも適用し、この裁判が確定した日から弐年間、右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用の負担については、刑事訴訟法第百八十一条第一項後段を適用する。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人片岡政雄は、本件に関して刑事訴訟法第三百三十五条第二項に規定する法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実の主張及び同条項の規定に該当しない多くの主張をしたので、当裁判所は前者並びに後者のうち主要なものに対して、次の通り判断する。

第一、本件公訴事実は刑事訴訟法第三百三十九条第一項第二号所定の「起訴状に記載された事実が真実であつても何らの罪となるべき事実を包含していないとき」に該当するから直ちに公訴を棄却せられたいと主張するけれども、本件起訴状に公訴事実として示された事実が、記載された罰条の構成要件にあてはまるものであること明らかであるから、弁護人の右主張は採用することができない。

第二、被告人の判示所為は、公共の利害に関する事実に係り、その目的は専ら公益を図るに出たものであり、且つ真実に符合するものであるから刑法第二百三十条の二第一項及び第二項に該当し、百歩を譲り仮りに本件公訴事実記載の事実が、被告人の責に帰すべき事由ありとするも、これを処罰することは法律上許されないものであると主張する。

しかし前掲各証拠並びに本件で取調べた証人〓口明、清野武雄、門馬一夫、安藤敏雄、丹治令子、佐藤テル及び田中利子等の各証言を綜合すれば、被告人は会社の禁則に背き、度々私有の金銭を所持して会社の乗合自動車を運転したことがあつたので、直接監督の地位にある〓口明(会社の中村営業所主任)がその事実の有無を調査するため、昭和二十九年十一月十日頃の午後七時頃、右中村営業所の乗務員控室に被告人を呼び入れ、清野武雄、門馬一夫及び安藤敏雄(その当時三名とも睦会の班長をして居た乗合自動車の運転者であつたもの)の三名を立会わせて被告人の所持品検査をした際被告人の穿いて居た靴の敷革の下から、縦に二つ折にした十円札二枚が発見されたとて、その出所を追究したところ、被告人も身の潔白を主張して相当興奮した揚句、自ら上衣やズボンを脱いで〓口明に渡し調べさせた事実及びその後右事実に関連して〓口明より辞職を勧告され、その示された書式に従い、退社願書を書いて同人に提出したところ、その書面の体裁が宜しくないとて、書き直すよう言われたが、被告人は毛筆では書けないから書いて呉れと、〓口明に申出たので、同人において被告人のために被告人名義の退社願書を代書してやり被告人がその名下に押印して提出したものである事実が認められる。そうして〓口明が自分の監督下にある者だけ三人を立合わせて、被告人の所持品検査をしたり、その結果被告人の靴の中から発見した十円札二枚を、被告人においてその出所を明らかにしないからとの理由で、これを一応不正なものと断定して勝手に取り上げたことは、行き過ぎた措置であり、又被告人より依頼されて被告人名義の退社願書を書き与えた際、被告人において書き得る氏名を、被告人に自ら書かせなかつたことは、〓口明の手落であり、これがために後日紛争を招くことになつたものと推測される。しかし弁護人の主張されるように判示事実(新聞記事)の真実性を認めるに足る確証がない。尤も弁護人は、以上の各証人がいずれも被告人と全く反対の立場にある〓口明及びその支配下にあつて、〓口明のため不利な証言を供述し得ない者等であるから、右者等の各証言はいずれも証拠として無価値なものばかりであると主張されるけれども、右者等の前記各証言は検察官や司法警察員に対する供述と異り、兎も角、公開された法廷で宣誓の上供述し且つ弁護人及び被告人の反対尋問をも受けて居るのであり、弁護人の右主張は、被告人の供述以外にはこの主張を裏づける何等の証拠もなく且つ前記証人等の供述の証明力を争うための証拠さえ見当らないのであるから、弁護人の前記主張を認容することができない。

第三、本件は被告人に犯意なく且つ実行行為なきものであるから、被告事件について犯罪の証明がないときに該当し無罪であると主張する。しかし被告人が島幸より質問されて話したのは、既に大木久夫より質問された後の事であり、且つ後で無罪の説明をするように、同人より質問された場合と異り、島幸は河北新報の印のある自転車に乗つて、わざわざ被告人の職場まで訪ねて行つたものであり、又被告人に質問する際、被告人の談話を一々書き留めて(速記したとのこと)居たものであるから、その時既に島幸が河北新報社の記者であることを知つたものであり、その点は被告人も当公廷において認めて居るところである。しかもその時島幸の要求を容れ写真までとらせて居り、最後に島幸より被告人の談話を新聞に掲載するが宜しいかと念を押されて「宜いですと」承諾を与えて居るのであるから、被告人は島幸が同人より質問されて話した被告人の談話を、新聞記事の材料として書取りこれを新聞社に送り新聞紙に掲載させるものであることを充分知つて居たものであることは、前記各証拠に照し真に明らかである。固より被告人において〓口明の名誉を傷つけようとする目的意図又は期待をもつて、被告人より進んで積極的に新聞記者に談話を発表してその掲載方を慫慂する必要はない。

以上の理由によつて被告人に犯意のあつたものと認める。(大正六年七月三日大審院判決及び安平政吉博士の改正刑法各論上巻一八四頁等参照)

(一部無罪と認めた理由)

次に本件公訴事実中、被告人が昭和三十年七月二十六日頃相馬市中村字上町所在の武林呉服店車庫において、読売新聞記者大木久夫に対し新聞紙上に掲載されることを諒知しながら「一言も私の弁明を聞かず人の前で真裸にして調べるとは人権無視も甚だしい、〓口所長の横暴は話の外で従業員は皆泣いているが、馘が怖しいので皆黙つている」旨の談話を発表し因つて同月二十七日附読売新聞紙上に右談話を掲載させ以て公然事実を摘示し〓口明の名誉を毀損したものであるとの点につき考えて見るに、前掲の各証拠に証人大木久夫及び被告人の当公廷における各供述を綜合すれば、被告人は昭和三十年七月二十三日頃相馬人権擁護委員協議会(福島地方法務局相馬支局内の)に対し、〓口明によつて被告人の人権を侵害された旨の申告をしたところ、この事実を探知した大木久夫が偶然街路上において出会つた被告人に対し右事実につき質問したので、被告人もかねて面識のある大木久夫より質問されたので、深く考えることもなく、只普通人に話すような気持で前記人権擁護の申告をした事情を話したものと認められる。しかもそれが島幸より質問された時と異り、その談話の内容を速記されたり、被告人の話を聞いて新聞に載せるつもりであると打ち明けられた事実もなかつたのであり、又大木久夫に話したのが島幸に話す以前のことであつた点等からすれば、被告人は読売新聞相馬通信部の記者大木久夫より質問された場合には同人が被告人の談話を新聞記事の材料とするため質問するものであることに全く気付かないで話したのが実情であると認める。尤も被告人の検察官に対する昭和三十年十一月十六日の供述調書中第六項の末尾の部分に、被告人の供述として「新聞記者に話した事ですからその事が新聞に出ると云う事は判つて居りました」との供述記載があるけれどもこの供述調書は被告人を被疑者として供述拒否権を告げられて取調べたものでなく、参考人として取調べたときのものであることが証人平沢光安の当公廷における供述によつて認められ、又被告人もその当時取調べを受ける際相当興奮して居たので、読み聞けられた調書の内容がよく頭に入らなかつたが自分は検察官の問に対し新聞に出ると言うことは知らないで話したと述べたように記憶して居ると、当公廷で述べて居るものであり、これらの事情を前記認定の事実に照合すれば、右調書の供述記載が真実であるとは認められない。他に右認定を覆して被告人にその犯意ありと認め得る確証がないから、結局この点については犯罪の証明がないものとして刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪の言渡をした次第である。

そこで主文の通り判決する。(昭和三一年九月二二日福島地方裁判所相馬支部)

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